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(※注※ 長いです)

人間に必要な平均的な睡眠時間は8時間、とよくいわれる。
まあ、なんとなくそんなもんかな、と思う。
大体8時間も寝れば翌朝スッキリ、1日元気に過ごせそうな気がする。
夜11時に寝れば朝7時起床。実に健康的だ。

けど、オトナになってから周りを見渡すと、11時に寝ているって人はほとんどいない気もする。
みんな、遊んだり、働いたり、勉強したり、飲み明かしたりで忙しい。
かといって、キッチリ8時間寝たいがために、毎日のように会社に遅刻してくるような人にも、まず出会ったことはない。
(いや、実は数名いるにはいるが…話が横道にそれるのでコッチへ置いときます。うんしょ。)
ということは、ほとんどのオトナが本当に必要な睡眠時間をとることができず、頭ぼんやり、なんだかダルーイ1日を過ごしているということになるのだろうか?

たいていの人がそんな様子もなく精力的に1日を過ごしているように見えるが、少なくとも、私は違う。
エバって言うことではないが、睡眠不足というものにゃあ、とにかく弱い。
ちょっとでも寝足りなかった!という日は、全身がなんともいえない倦怠感にモヤモヤモヤーッと包まれてしまう。
「パグ主人」のステータス欄を開けば、スリプル(或いはラリホー)の耐性は「ゼロ」。
遅刻したら怒られる!とか、給料が減る!といった強迫観念でもなければ、いとも簡単に睡眠というステータス異常を起こしてしまう。
それが、まさに今。なんのプレッシャーもない専業主婦状態。
娘(モンク系・1才)は毎朝「殴る」→「みかた」→「パグ主人」という不毛な攻撃を繰り返しているが、どんより垂れ下がったハハの瞼がやっとこさ重力に勝つまでの間、相当の辛抱をしていると思われる。ついでながら、夫(シーフ系・壮年)の選択は「逃げる(出社)」ってとこだろうか。

最近では、8時間寝たはずなのに、昼間のポカポカいい時間帯になるとまたしても頭がモーローとし始めたりする。
ちょっと横になってみよっかな~…とゴロリと頭を下にしようもんなら、まあ魔法にかかったように見事に夢の中。
もしや、私に必要な睡眠時間は8時間ではないのだろうか? 実はもっと寝なければならないのだろうか!

ネット情報によると、それぞれ人口の5%くらいの割合で、「ショートスリーパー」、「ロングスリーパー」と呼ばれる人たちが存在するらしい。
その名の通り、少ない睡眠時間、具体的には6時間以下の睡眠でもオールOKな人たちが「ショートスリーパー」、逆に9時間以上寝ないとスッキリしません!って人たちが「ロングスリーパー」だというのである。
ショートスリーパーの典型は、3時間しか寝なかったという逸話で有名なナポレオンなど。
そして、ロングスリーパーの典型が、かのアインシュタイン。
かのっつっても、相対性理論、原爆、くらいしか浮かんでこないけども…
ほう、つまり私は女性版アインシュタインってことか。

と、こんな話を夫にすると、苦笑しながら「要はやる気の問題でしょ」などと言う。

いいや!…確かにやる気はないことが多いけども!眠いったら眠いのだっ。
それはもしかしたら、アインシュタインと同じ脳みそだから、ってこともあるかもしれないではないかっ。

そんなロングスリーパー(?)の性(さが)か、日中も隙あらば寝たい、隙がなくてもできれば寝たい。
この高ぶる欲求を満たすためには、娘(1才)の昼寝タイムが非常に重要となってくる。さすがに娘を放って寝るわけにはいかないので、彼女と一緒に寝るしかチャンスがないからだ。

貴重な昼寝を確保するため、自分を叱咤しつつ朝から精力的に動く、いやさ、動かす(娘を)。
育児サークルに連れていったり、裏の公園を散歩したり、買い物に行ってみたり、さまざまな方法で娘を疲れさせるのだ。
すると娘は大抵、昼飯前には目をこするなどの眠そうなジェスチャーを始める。
しかし、ここで焦って寝かせてはならない。まずは頑張って昼御飯を食べてもらい、さらに軽く腹ごなしして2時前後からじっくりまとめて寝てもらうのがベストだ。
それもこれもぜーんぶ、自分も一緒に寝たいがため。なははは。

さて。
また1日、無事「娘の昼寝ミッション」に成功し、さらに快適な午後を過ごすためにあらかじめ夕飯の支度を済ませよう、そしてなーんにもしなくていい状態にして思いっきり寝よう、そうしようそうしよういっしっし、などとほくそ笑んでいた矢先。

悲運」はやってきた。

メニューは中華。
ナスと挽き肉の中華あんかけ丼に春雨の中華スープ。
娘の睡眠を妨げないよう騒音に注意しながらも、簡単レシピであっという間に完成間近。
野菜やキノコがたっぷり入って、我ながら満足の仕上がりだ。
とろみをつけてさあ、出来上がり、というその時。

どうした弾みか、左手の先っぽがスープの入った鍋のふちに引っ掛かり、

ばしゃーーーん!

ひっくり返った鍋からとろとろあつあつの春雨が太もも前面に一直線。

“あちぃぃぃぃっっっ!”

…という大声が出なかったのが不思議なくらいだ(そこまでして音を立てたくなかったのだろうか)。

不幸中の幸い、ふんわりしたフレアスカートをはいていたので、間違いなく100度以上に熱された春雨が直接、太ももに貼りつくという難だけは逃れることができた。
しかし、離乳食用に短くカットした春雨は台所のあちこちに飛び散り、隙間に入り込み、スカートにまとわりつき、その片付けに要した時間は優に、調理時間を超えてしまった。
鍋には元の量の3分の1程度しか残らなかった。
たくさん作って保存して、また楽をしようと思っていたのに…トホホ。

今となっては、その失態が、早くゴロゴロしたいという焦りのせいなのか、音を立てないよう制限した動きが裏目に出たのか、判然としない。
おそらく、その両方が原因だったのだろう。

その日、私が満足に昼寝できなかったことは、言うまでもない。

この日ばかりは、自称ロングスリーパーを撤回し、「私って相当、寝汚い(いぎたない)よな」と認めたのであった。

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台風13号が去っていった。
九州地方では家屋倒壊や浸水、農作物の損壊などの被害を残した。
そして我が家も今、この災害の爪あとに苦しんでいるのである。

18日。
昼過ぎには暴風域に入るでしょう、とTVの天気予報が告げている。
今日は、ワタシの住んでいる市の5ヶ月児健康相談の日だ。
台風の影響で少し開始時間が早まったものの、予定通り行うらしい。
同じ月に生まれた5ヶ月になる可愛い赤ちゃんが沢山集まるこの機会、何日も前からワタシはとても楽しみに待っていた。

赤ちゃん連れのお出かけは、余裕を持っての行動が望ましい。
朝。
早めに台風対策を済ませて、ゆったりと出かけようと、パグ子を2Fの寝室から1Fに連れていってひととおりの世話をすませた後、まずは2Fの雨戸を閉めておくことにした。

2Fには雨戸を閉めるべき部屋が2つあるのだが、その2部屋が幅の広い南向きのベランダで1つにつながっている。
ベランダ側から見れば、それぞれ別の部屋へ通じる大きな掃き出し窓が2つ、ついている形になる。
2つの部屋は、ベランダ側から左が寝室、その右隣がおもちゃや本棚がある物置部屋だ。

寝室の掃き出し窓からベランダへ出る。
まだ、雨足はそれほど強くない。
先に隣の物置部屋の雨戸を閉め、再び左の寝室側へ。
以前から気づいてはいたのだが、寝室の窓の戸袋周辺に、鳥の糞がかなり溜まっている。
広いベランダのこと、普段の生活には影響がないので、掃除をするのも厄介だし、見て見ぬふりをしていた。
どうせ借家だ。出て行く家だ。というのもある。
しかし、決して美しいものではない。いや、汚い。
ウェットティッシュを握り、憂鬱な気分で戸袋に近づき、雨戸を1枚、ひいた。

雨戸にも糞がついている。
不潔だ。
今回の台風は風の心配はさほどでもなさそうだ…いっそ雨戸を戻すか?

戻す方向に視線を向ける。
戸袋に現れた、雨戸1枚分の薄暗い空間が目に入る。

…と。

亜sdkjrj言うs@ウェkjl;ウイ緒rj;lkkあp」「そrナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレ?????

つるりとした茶色の個体が4つ、5つ。
身を寄せ合って、モゾモゾ…モジモジ…
壁に小さな手を引っ掛け、小刻みに蠢動している。

「ひっ!」
息を吸ったのか吐いたのか分からない喘ぎが喉を塞ぐ。
1拍おいて、指先から背中に向かって一気に肌がゾワゾワと粟立つ。

息を潜めてじりじりと後ずさる。
停止した思考が捕らえた映像を分析しようとするのは、それからである。

ネズミ?
いや。
ちがう。
なんだ!?なんだ!?!?

いや!
分析はあとだ。
このままではまずい。見たくない見たくない見たくない。

脳からの指令。
“雨戸を戻せ!”

ガラガラガラ。

キャーーーーーーー!!!」

寝室を旋回する黒い羽。
分析するまでもない。コウモリだ!!

ひいた雨戸の内側に、1匹、ついていたのだろう。
およそ2周/1秒のスピードで、弧を描いて音もなく飛んでいる…嗚呼、気が遠くなりそうだ…。

「キャーーーーーー!!!」
旋回がこちらへ向かうたび、ベランダに甲高い悲鳴が響き渡る。

戻しきれていない雨戸の戸袋では、相変わらず蠢動を続けるコウモリの子供たち。

「お願い!お願いやから、出て行ってよ!」

もう、涙と鼻水でぐちょぐちょである。
雨足が、強まってきた。
そうだ、隣の部屋から…

「イヤーーーーーー!!!」

最初からいたのか、移動したのか、右の窓の戸袋にも1匹、蠢いている。

「助けて!助けてよーーー!!!」

パグ夫は、既に出勤してしまった。

パグ子が、1Fで待っている!!!

「出て行け!出て行けよおーーーーー!!!」

イヤになるくらい、近所に人気がない。
いつサンダルが脱げたのか、裸足でベランダを逃げ惑うワタシ。
誰も助けてくれない…コウモリは旋回中…もうダメだ


力尽きそうになったその時、寝室のクーラーの上あたりでコウモリがふと見えなくなった。
今しかない…!
勇気を振り絞って泣きながら部屋に突入。窓を閉める。ドアを閉める。一目散に1Fへ逃げる。



現在。
「開かずの間」となった寝室を、その日の朝のうちに帰ってきてくれたパグ夫と捜査するも、バットマンは忽然と消えてしまった。
パグ夫がいうには、腰高窓の方が少し開いていたから、そこから出て行ったのではないか、と。
しかしワタシには気休めとしか思えない。

Xデーの翌朝、心細さに萎え入りそうになりながらも、寝室の中から雨戸を完全に戻すことができた。
戸袋の中は、未確認である。

ネットで調べると、日本のコウモリは人畜無害であるらしい。
むしろ、蚊などの害虫を食べてくれる益獣とされているようだ(どおりでこの夏、蚊がこなかった訳だ)。
が…あのおぞましい蠢動を思い出すと、食欲が一気になくなっちゃうのである。
寝室へはよほどの用事がない限り立ち入らず、1Fでの生活を続けている。

コウモリが嫌うというナフタリン、ベランダの糞を掃除するデッキブラシを購入した。
そして万一、まだ部屋に潜んでいる場合に備え、向かいのオバチャンから捕獲網をレンタル中である。

決戦は、日曜日だ。
しかし、現実そのものを映して見るということになると、これは本当にもう、リアルである。
「鏡のようにはっきりと…」という表現があるが、
実際に鏡を覗けば自分の顔のあんなところやこんなところまで一目瞭然である。
これがどうも気恥ずかしい。
「きゃっヤメテ」という気分である。
試しに、急にワタシの目の前に鏡を突き出してみれば、あたふたと不審な挙動をとる可能性が高い。
少なくとも、すかさずお色直しをするという行動パターンは、今だワタシの中にはない。

こんなワタシにもお気に入りの鏡があって、
それは、実家の朝日が差し込む洗面所にあった、
肩から上が映るくらいの小さめの鏡だ。
この鏡は周りの壁が白く、太陽の光がよく反射するせいか、
特に朝、顔を映すと頬の線が実にすっきりと、そして色白に見えた。
他の鏡で見ると大抵、顔が膨らんで見えたのだが、今思えば恐らく、そっちが正解だったのだろう…。
しかしこの間違った自己認識をしている間は幸せで、
周りにも家族しかいないからそれほど恥ずかしい思いも抱くことなく、
しゃれっ気が出て髪を伸ばし始めた頃なんかは、不器用なくせに、
ピンを使ったり三つ編みをしたりリボンを結んだり、
思う存分にお出かけの準備に時間をかけたものだ。
その鏡には「泉水道工務店」と施工店の名前が金文字で入ってあったのをよく覚えている。
今は実家の洗面所が改装されてしまったので、あの懐かしい鏡はどこかへ消えてしまった。

自宅のように自分の空間が確保できる場であれば、
ワタシも皆さんに負けず劣らず鏡を愛用し、
自分のナットクできる顔を見つけるまでガンバッテいるのだが、
公衆の面前や友人達と一緒に、となるといけない。
ことさらに人前では、鏡に映った自分と「目線を合わせること」が恥ずかしい。
鏡を見ること=自分を見つめること=自己と対面し、認識し、受容すること、である。
そんな極めて個人的で密やかな行為を、
まるで周りに誰もいないかのように人目を気にせず行うということが、ワタシにはずっとできずにいた。
まあすごく簡単に言えば、みんなに
なにガンバッちゃってんの
とか思われるのでは!とビビっているというだけの話なのだが。

連れだって女子トイレに行く時なんかは、この最たるものである。
先に個室から出た場合は、鏡を見ている自分を友達に見られるのは苦痛なので、
ほとんどの場合、トイレの外まで出て待つことになる。
(時々、友達に不思議そうな目で見られる。)
後に出た場合は、大抵の友達はちゃんとお色直しをしているのだが、
その姿を覗き見するのも苦痛なのでなるべくそちら側を見ないようにし、
かつ手だけ洗ってサッサと外へ出るのも付き合いが悪いかなという気持ちから
自分も口紅などを取り出したりするが、
やり慣れない上に化粧道具もあまり持ち歩いてないので、
すぐに手持ち無沙汰になり、結局は先に外へ出てしまうことが多い。
なんだ?鏡ひとつで、この不器用な生き様は(涙)

多分、どこかに、キレイであろうと頑張ることは悪いこと、という意識があるみたいだ。
悪くはなくても、同じ女性からはどうも好かれそうにない行為だな、と感じてしまう。
だから、人目を気にせず、真っ向から鏡に向かって、
自分とも他人とも勝負している(ようにみえる)女性達には、軽く憧憬の念を抱いてしまう。
すごいなーっと思う。
「美醜など気にしない」という態度をとらなければならない、そうしなければ疎まれる、
という幼い頃からの小心で疲れる考え方は、
かなり根強くワタシの青春を侵してしまった。
でもやっぱり女の子なので、姿かたちは気になる訳で、
そこに、鏡の前で挙動不審に陥る原因が生まれる。

ああ、これも民主主義教育(平等教育)の功罪であろうか。

幸い、この複雑な感受性も、最近になってようやく、薄まってきた感がある。
思春期に常に抱いていた自他に対する切羽詰まった思いが和らぎ、
子どもの頃のように自己受容できている。

これがオバチャン化か!

人前で鏡を見ることにも、ほとんど苦痛を伴わなくなった。
もっとよく見ようと、公衆トイレの鏡に向かって身を乗り出し、マスカラを塗りたくることもできた。
目覚ましい進歩だ。

そうして、通勤途中、電車の乗り換えの合間に公衆トイレの鏡で
「自分チェック」するのが日課になり始めたある日のこと。
3つの洗面台の前にそれぞれ設置された3面の鏡は、毎朝盛況で、
あまり長居すると後がつかえてくるのだが、
人の迷惑も顧みず、なんとわざわざ

鏡の前で自分の顔を見つめながらタバコを吸う

という暴挙に出る女性が現れた。
女性というより、オバチャンだ。

まず第一に、トイレ内(というより駅構内)は禁煙である。
第二に、3面の中でも特に中央の1枚の前に好んで陣取るため、邪魔である。
第三に…お世辞にも美とは程遠い容姿の持ち主である。

一体、何のために、タバコを吸う自分の姿を見つめ続けるのか?
オバチャンなりの、朝の儀式なのだろうか…。
煙いし、洗面台は塞がるし、迷惑この上ない。
嫌らしいほどどぎつい赤の口紅をひいた、煙を吐き出す大きな口は、
なつかしの“喪黒福造”によく似ている。
よもや、これが女性の自意識の変化における最終形態だとは思いたくない。

しばらく通ううちに、ある時間帯には必ず現われることが分かった。
運悪く彼女と遭遇すれば、女性達の「自分チェック」の時間も台無しだ。
あるいは、それを狙っての仕業かもしれない。

女子高生たちが囁く。
「ちょっと…」
「…あ、またアイツ…」

「妖怪!」

「今度会ったら、わたし、ゼッタイ止めてって言うわ!」


妖怪VS女子高生のバトルがどのような結果に終わったのかは、未確認である。

鏡。
それはお年頃の女性の必須アイテムだということを、ほとんどの人が疑わないだろう。
ところがワタシ、この鏡が苦手である。
苦手なために、いつでもお化粧直しできるように持ち歩くというような習慣も、ない。
街へ出れば、
電車の中であろうと、
道端であろうと、
食事中であろうと、
仕事中であろうと、
ところかまわず鏡で「自分チェック」をする女性が主流となっている世の中だ。
女性だけでなく、今では男性にさえその傾向が感じられるではないか。
ところがワタシの場合、鏡を見ようと思ったら、公衆トイレへ駆け込むよりほかない。

別に「自分チェック」に批判的な意見を持っている訳ではないのだ。
常に自分をベストな状態に保とうとする前向きな姿勢は、むしろ感心すべきもので、羨ましいとさえ思っている。
電車の揺れにも負けず、上手に化粧直しができる腕前には、心から賞賛の言葉を贈りたいと思う。
ワタシなら、まず鏡を持たないため電車内で自分チェックをすることもできないのだが、
仮に鏡を与えられたとしても、粉やら紅やらでそこら辺を汚してしまうか、
下手をすれば他の乗客の皆さんに迷惑をかける結果となってしまいそうだ。
いや、まず、「鏡に映したい部分を映せる」という技術からして、自信がない。
あの携帯用の小さくカラフルな鏡を自在に操り、
目なら目、鼻なら鼻、口なら口を映しながら、
一方では化粧直しをし、
一方では電車の揺れに耐えるなど、
鼻の穴を膨らませながら涙を流すのと同じくらい、奇抜な芸当だと言わざるを得ない。

さて、この鏡への苦手意識は、いつ頃から形成されたのであろう?
そもそも、「お年頃の女性用のアイテム」という考え方自体が曲者である。
鏡が、「お年頃」専用ではなかった時代・・・あの頃の鏡は、実に輝いていた。

鏡を使った、とても面白い遊びを紹介しよう。
仕掛けは簡単。
場所は屋内がよろしい。
大きめの手鏡を、鏡面を上にして鼻の真下にあてる。
そして、目線を鏡面に向けると、見たこともない景色が足元に広がっているのだ。
今まで歩いていた確かな床が消え去って、変な模様や、木の張り出しや、凸凹がある、
距離感もおかしな複雑な地面を歩く羽目になり、とても危なっかしい。
要するに、鏡に映った天井を足元に見ながら歩くことになるのだ。
これは想像する以上に実際にやってみると、面白さがよく分かる。
特に、電気がぶらさがっている場所や、部屋から部屋へ移動する時なんかは、スリル満点だ。
ご自分の部屋を見回してみれば分かると思うが、実際の敷居は歩きやすい高さになっていても、ドア上部の天井からの距離は意外に長い。
その距離がそのまま、にせの敷居となって足元にせりあがって見えるのである。
慎重にやらないと危ないが、このスタイルで階段を上るというチャレンジも楽しい。
ワタシはこの遊びが大好きで、飽きることなく挑み続けていた。
まるで異次元を冒険しているみたいなワクワクする体験が、手鏡ひとつで可能になる。
皆さんも、やったことがあっただろうか?
最近の瀟洒なマンションやモダンな家となると、天井がすっきり平らで何の模様もなく、それほど興奮する道のりにはならないかもしれないが・・・。

他にも鏡には合わせ鏡や、光を反射させて相手にキョーレツに眩しい思いをさせるなど、楽しいイタズラ方法がある。
マジックでも鏡は基本アイテムだし、万華鏡は美しい幾何学模様に触れる最初のツールとなる。

(つづく)






これから話を伺いに行くのは、若い男の子だ。
彼が主演の映画の試写会は、J嬢と共に鑑賞済みである。
この作品にはお笑い芸人が多数起用されていたとのことで、お笑いマニアでもあるJ嬢などは、鑑賞後、内容よりも出演者の面々に対してかなり興奮の体で
「○○があんなところに!××はあんなところに!」
とまくし立てていたが、もちろん、私には誰一人として分かるはずもない。
どころか、あらゆる出演者が初対面である。
キャリアの長い俳優陣に関しては、さすがに顔を見たことはあるのだが、相変わらず名前は出てこない。
そして爽やかに主演を演じきった肝心の男の子であるが、映画の主演は初めてらしいが、これまでに数本のドラマ・映画出演経験があるということだ。
J嬢は
「いやー、彼は“クル”と思ってました!」
とやはり興奮気味である。

映画は、作品としてはなかなか上出来の方だったので、役柄としての出演者たちには親近感を覚えているのだが…本物の彼とご対面となると、どうにも気持ちが沈みがちだ。
どうもワタシの頭はリアルに対応できていないようで、映画を観るのは大好きなのだが、だからといってその役を演じた俳優はどんな人?というところまで興味が続かない。
あくまで、役柄が好きなのだ。
ロード・オブ・ザ・リングならばレゴラスやアラゴルンに心底ホレつつも、オーランド・ブルームやヴィゴ・モーテンセンその人となってしまうとラブ度は半減。
名前を知っているだけ、まだマシってものである。
ん?
しかし仮にその2人にインタビューできるなら、嬉しさのあまり昏倒してしまいそうだな…。
結局は、今回の作品、この出演者たちは、ワタシのせまーい興味の範疇にビビビと飛び込んではこなかった、ということなのかもしれない。

この後ろ向きな気持ちをどう解釈するにせよ、2時間後、である。
カメラ兼お助けマン(お目付け役?)として、いつも同行してくれるしっかり者のJ嬢の手前、ないやる気を雑巾絞りに絞り出す作業に、そろそろ入らねばまずい。
それにしてもJ嬢は、えらく嬉しそうだ…。
期待の若手俳優に会えるのが、よほど楽しみなのだろう。
不安のかけらもないJ嬢の顔つきをみた瞬間、ワタシの中で何かが弾けた。
「J嬢。」
「ん?」
「ごめん。できたら、今回は、インタビューしてくれへん…?」
そう。
逃げたのだ。
J嬢はライターでもあり、性分が頼れるアネゴ肌なので、7割以上の確信はあった。
「えー、うん、まあ、いいよ。じゃあ、カメラお願いね」

快哉を叫ぶ、とはこのことだろう。

この瞬間、一切の苦悩と緊張から解き放たれたワタシは、嬉しさのあまり一気にテンションが高まった(本当に分かりやすい人間ですよ)。
側で頷いているだけでいいなら、取材時間ほど楽しいものはない。
俳優の素顔にも一転、興味がむくむくと湧きあがってくる。
J嬢からでかい一眼レフカメラの使用方法を簡単に説明してもらい、足取りも軽やかに現地に向かうことになった。


カシャーーー、カシャーーー、カシャーーーー…
シャッター音が響き渡る。
正面、斜め上方、右、左。
遠景、近景。
あらゆる角度から俳優(Aさんとしよう)のベストショットを撮りまくる。
インタビューは、長引いている。
本来なら、良い合いの手でも入れてJ嬢の仕事を楽にしてあげるべきなのだが、
完全に逃げの体勢に入ったワタシは、とにかく撮影を続けている。
50枚は撮ったのではあるまいか?
プロではないので数打つ必要があるのは確かだが、明らかに、傍観者を決め込みたいという巨大な無意識の力が作用している。

どうやらAさんは、聞いてもいないことを喋りすぎるタイプのようだ。
自分を語るのが大好きなタイプである。
喋ってくれない人に比べればありがたい話なのであるが、
質問に対する答えではなく、単に自分の興味関心を延々と語りたがるので、
最終的にはこちらの質問が何だったのかも分からなくなりがちだ。
J嬢も、やや首を捻っている様子。
ヘラヘラ笑ってシャッターを切りながらも、いつの間にやら話が
「10代で立ち上げた会社が成功して…云々かんぬん」
などとあらぬ方向にそれていくのを目の前にしていると、J嬢への同情を禁じえなくなってくる。
何とか助け舟を出したいという気持ちと、J嬢、ガンバ!という傍観者の気持ちがせめぎ合い、結局、特に何をするでもない。

予期せぬ脱力感に見舞われながらも、ようやく質問事項も残り少なくなってきた。
どうやら、カメラのフィルムを使い切ってしまったようだ。
2本目のフィルムに手を伸ばし、カメラの背を開いて交換作業に取り掛かる。

と、その時。
信じられないものを目にした。
カメラの背を開いたときに通常見えるのは、いや見えなければならないのは、フィルムのペラペラの端っこである。
ところがそこにあったのは、巻き上げられていない状態で見事に露出した茶色のフィルムそのものだった。
まさか。
そんなまさか。
そういえば、カメラ使用法の説明をJ嬢から受けた際、巻き上げの方法を聞いた記憶が…。
自動巻き上げ…では、ない、と。

頭が真っ白になる。
白地の脳みそにただ一つ、浮かび上がった「感光」という文字がリフレインする。
目の前すぐの場所にはAさん。
左前方にJ嬢。
後方には、プロダクション関係の方が2人、控えている。
身動きが、とれない。
それに、限られた取材時間の中、今さら、最初から撮影させてくれとは、とても言えない。
しかもその理由が
「感光」、「感光」、「感光」…
リフレインが、トマラナーイ。

一縷の望みをかけて、もう一度、カメラの背を閉じてみる。
そして、これが巻き上げか?と思われるボタンを操作してみる。
が、微動だにしない。
J嬢から受けた説明は、どこかへ飛んでいってしまっている。
何しろ、今、ワタシの頭の中にあるのは、「感光」の2文字だけなのだから。
かといって、どのボタンでもいいから押してみる、という荒業に出ることも出来ない。
カメラマンとして来ているのに、カメラの基本操作と格闘する訳にはいかないではないか。

ここから、ワタシの必死の隠ぺい工作が始まる。
目線はAさんへ。
そして顔には笑顔をはりつけ、タイミングを見計らって頷く。
問題のカメラは全員からの死角になるように隠し持ち、手の親指だけでフィルムの巻き残しをズズ、ズズ、と直接押し込んでゆく
考えたくないことだが、まず間違いなく、この50枚はすべてパアである。
何が何でもフィルムを交換し、1枚でも多く写真を撮っておかなければ、インタビューページの顔写真が空白になってしまう。
かつ、自然な動きで誰にも気づかれぬようこれをやり遂げなければ、永遠の笑い者になることも間違いない。
おまけに、幾つも年下の、この賢しらぶったA青年の前でそんな醜態をさらすなど、およそ耐え難い苦痛である。

そんなワタシの懊悩とは裏腹に、タイムリミットは刻々と近づいている。
左手を駆使して押せども押せども、フィルムの終わりは見えてこない。
そして…悪魔が微笑んだ。
巻き上げ作業は遂に終了することなく、お礼を述べて退場することとなってしまったのだ。

「J嬢…、ごめん!!!フィルム、感光させてしもうた!!」
「えええーーーー??アンタぁ…」
「きっと、やっぱり、この場合、全部使い物にならんよね?どうしよ?どうしよ??」

既に半ベソである。
J嬢は、年下である。
ああ、情けない。
しかし、社歴では先輩のJ嬢は頼もしく、もし全部ダメなら、プロダクションから写真を借りて、それを載せれば済むことよ、と教えてくれた。
その手があったか!
とはいえ、やはり本来は取材中の顔を載せるべきところなので、とんでもない大失態には変わりなく、うちひしがれた気分のまま次の仕事へと向かうことになった。

やはり、仕事というのは、誰かに甘えてやるものではない。
たとえサブの立場であっても、常に全体を把握し、いつでも主役を張れる状態で臨まなければならないのだ。


結局、写真はどうなったかって?
フィルム撮影をする前に、光量やポジションの確認のため取材冒頭に2、3枚だけ撮っていたデジカメの写真の1枚が、なんとか採用できるレベルにあり、これを掲載することで落着した。
背景の壁にAさんの頭の影が黒々と映りこみ、まあロクな写真ではなかったのだが、表情だけはオトコマエに撮れていたのが救いだった。

油断から究極の焦りへと悪夢の転落を遂げた今回の体験は、きっとワタシを大きく成長させてくれたことだろう…と信じている。

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