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これから話を伺いに行くのは、若い男の子だ。
彼が主演の映画の試写会は、J嬢と共に鑑賞済みである。
この作品にはお笑い芸人が多数起用されていたとのことで、お笑いマニアでもあるJ嬢などは、鑑賞後、内容よりも出演者の面々に対してかなり興奮の体で
「○○があんなところに!××はあんなところに!」
とまくし立てていたが、もちろん、私には誰一人として分かるはずもない。
どころか、あらゆる出演者が初対面である。
キャリアの長い俳優陣に関しては、さすがに顔を見たことはあるのだが、相変わらず名前は出てこない。
そして爽やかに主演を演じきった肝心の男の子であるが、映画の主演は初めてらしいが、これまでに数本のドラマ・映画出演経験があるということだ。
J嬢は
「いやー、彼は“クル”と思ってました!」
とやはり興奮気味である。
映画は、作品としてはなかなか上出来の方だったので、役柄としての出演者たちには親近感を覚えているのだが…本物の彼とご対面となると、どうにも気持ちが沈みがちだ。
どうもワタシの頭はリアルに対応できていないようで、映画を観るのは大好きなのだが、だからといってその役を演じた俳優はどんな人?というところまで興味が続かない。
あくまで、役柄が好きなのだ。
ロード・オブ・ザ・リングならばレゴラスやアラゴルンに心底ホレつつも、オーランド・ブルームやヴィゴ・モーテンセンその人となってしまうとラブ度は半減。
名前を知っているだけ、まだマシってものである。
ん?
しかし仮にその2人にインタビューできるなら、嬉しさのあまり昏倒してしまいそうだな…。
結局は、今回の作品、この出演者たちは、ワタシのせまーい興味の範疇にビビビと飛び込んではこなかった、ということなのかもしれない。
この後ろ向きな気持ちをどう解釈するにせよ、2時間後、である。
カメラ兼お助けマン(お目付け役?)として、いつも同行してくれるしっかり者のJ嬢の手前、ないやる気を雑巾絞りに絞り出す作業に、そろそろ入らねばまずい。
それにしてもJ嬢は、えらく嬉しそうだ…。
期待の若手俳優に会えるのが、よほど楽しみなのだろう。
不安のかけらもないJ嬢の顔つきをみた瞬間、ワタシの中で何かが弾けた。
「J嬢。」
「ん?」
「ごめん。できたら、今回は、インタビューしてくれへん…?」
そう。
逃げたのだ。
J嬢はライターでもあり、性分が頼れるアネゴ肌なので、7割以上の確信はあった。
「えー、うん、まあ、いいよ。じゃあ、カメラお願いね」
快哉を叫ぶ、とはこのことだろう。
この瞬間、一切の苦悩と緊張から解き放たれたワタシは、嬉しさのあまり一気にテンションが高まった(本当に分かりやすい人間ですよ)。
側で頷いているだけでいいなら、取材時間ほど楽しいものはない。
俳優の素顔にも一転、興味がむくむくと湧きあがってくる。
J嬢からでかい一眼レフカメラの使用方法を簡単に説明してもらい、足取りも軽やかに現地に向かうことになった。
カシャーーー、カシャーーー、カシャーーーー…
シャッター音が響き渡る。
正面、斜め上方、右、左。
遠景、近景。
あらゆる角度から俳優(Aさんとしよう)のベストショットを撮りまくる。
インタビューは、長引いている。
本来なら、良い合いの手でも入れてJ嬢の仕事を楽にしてあげるべきなのだが、
完全に逃げの体勢に入ったワタシは、とにかく撮影を続けている。
50枚は撮ったのではあるまいか?
プロではないので数打つ必要があるのは確かだが、明らかに、傍観者を決め込みたいという巨大な無意識の力が作用している。
どうやらAさんは、聞いてもいないことを喋りすぎるタイプのようだ。
自分を語るのが大好きなタイプである。
喋ってくれない人に比べればありがたい話なのであるが、
質問に対する答えではなく、単に自分の興味関心を延々と語りたがるので、
最終的にはこちらの質問が何だったのかも分からなくなりがちだ。
J嬢も、やや首を捻っている様子。
ヘラヘラ笑ってシャッターを切りながらも、いつの間にやら話が
「10代で立ち上げた会社が成功して…云々かんぬん」
などとあらぬ方向にそれていくのを目の前にしていると、J嬢への同情を禁じえなくなってくる。
何とか助け舟を出したいという気持ちと、J嬢、ガンバ!という傍観者の気持ちがせめぎ合い、結局、特に何をするでもない。
予期せぬ脱力感に見舞われながらも、ようやく質問事項も残り少なくなってきた。
どうやら、カメラのフィルムを使い切ってしまったようだ。
2本目のフィルムに手を伸ばし、カメラの背を開いて交換作業に取り掛かる。
と、その時。
信じられないものを目にした。
カメラの背を開いたときに通常見えるのは、いや見えなければならないのは、フィルムのペラペラの端っこである。
ところがそこにあったのは、巻き上げられていない状態で見事に露出した茶色のフィルムそのものだった。
まさか。
そんなまさか。
そういえば、カメラ使用法の説明をJ嬢から受けた際、巻き上げの方法を聞いた記憶が…。
自動巻き上げ…では、ない、と。
頭が真っ白になる。
白地の脳みそにただ一つ、浮かび上がった「感光」という文字がリフレインする。
目の前すぐの場所にはAさん。
左前方にJ嬢。
後方には、プロダクション関係の方が2人、控えている。
身動きが、とれない。
それに、限られた取材時間の中、今さら、最初から撮影させてくれとは、とても言えない。
しかもその理由が
「感光」、「感光」、「感光」…
リフレインが、トマラナーイ。
一縷の望みをかけて、もう一度、カメラの背を閉じてみる。
そして、これが巻き上げか?と思われるボタンを操作してみる。
が、微動だにしない。
J嬢から受けた説明は、どこかへ飛んでいってしまっている。
何しろ、今、ワタシの頭の中にあるのは、「感光」の2文字だけなのだから。
かといって、どのボタンでもいいから押してみる、という荒業に出ることも出来ない。
カメラマンとして来ているのに、カメラの基本操作と格闘する訳にはいかないではないか。
ここから、ワタシの必死の隠ぺい工作が始まる。
目線はAさんへ。
そして顔には笑顔をはりつけ、タイミングを見計らって頷く。
問題のカメラは全員からの死角になるように隠し持ち、左手の親指だけでフィルムの巻き残しをズズ、ズズ、と直接押し込んでゆく。
考えたくないことだが、まず間違いなく、この50枚はすべてパアである。
何が何でもフィルムを交換し、1枚でも多く写真を撮っておかなければ、インタビューページの顔写真が空白になってしまう。
かつ、自然な動きで誰にも気づかれぬようこれをやり遂げなければ、永遠の笑い者になることも間違いない。
おまけに、幾つも年下の、この賢しらぶったA青年の前でそんな醜態をさらすなど、およそ耐え難い苦痛である。
そんなワタシの懊悩とは裏腹に、タイムリミットは刻々と近づいている。
左手を駆使して押せども押せども、フィルムの終わりは見えてこない。
そして…悪魔が微笑んだ。
巻き上げ作業は遂に終了することなく、お礼を述べて退場することとなってしまったのだ。
「J嬢…、ごめん!!!フィルム、感光させてしもうた!!」
「えええーーーー??アンタぁ…」
「きっと、やっぱり、この場合、全部使い物にならんよね?どうしよ?どうしよ??」
既に半ベソである。
J嬢は、年下である。
ああ、情けない。
しかし、社歴では先輩のJ嬢は頼もしく、もし全部ダメなら、プロダクションから写真を借りて、それを載せれば済むことよ、と教えてくれた。
その手があったか!
とはいえ、やはり本来は取材中の顔を載せるべきところなので、とんでもない大失態には変わりなく、うちひしがれた気分のまま次の仕事へと向かうことになった。
やはり、仕事というのは、誰かに甘えてやるものではない。
たとえサブの立場であっても、常に全体を把握し、いつでも主役を張れる状態で臨まなければならないのだ。
結局、写真はどうなったかって?
フィルム撮影をする前に、光量やポジションの確認のため取材冒頭に2、3枚だけ撮っていたデジカメの写真の1枚が、なんとか採用できるレベルにあり、これを掲載することで落着した。
背景の壁にAさんの頭の影が黒々と映りこみ、まあロクな写真ではなかったのだが、表情だけはオトコマエに撮れていたのが救いだった。
油断から究極の焦りへと悪夢の転落を遂げた今回の体験は、きっとワタシを大きく成長させてくれたことだろう…と信じている。
西川君…!西川君…!!
…面白すぎて気を失いかけました。
(「西川君」ネタ知ってる!?)
因みに私は西川君に似てると言われてことがあります…というのはどうでもいいのですが
私も映画の役者には殆ど興味が無く、俳優の名前といえば「ロバート・レッドフォード(スパイゲーム)」「グレゴリー・ペック(ローマの休日)」くらい!?
ところが私の友人には、逆に映画の内容には全く興味が無く、配役や撮影のセットのあら捜しが好き!というヤツもおります。
多分一生分かり合えないのでしょう。一度、パグ主人とそいつを対談させてみたいものです。
私は横で失神してます。笑
しかしパグ主人、職業ライターなんて響きがかっこいいですな。カメラの話題が無ければ…