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さて、安物の鎌を振るいはじめて数十分。
新居の庭は、まず15畳以上はあろうという広さで、問題の雑草は特に、子どもの頃はよく手を切って痛い思いをさせられた“カヤ”が中心ときている。
カヤが生えた庭なんか、まともなお宅では見たことがない。
カヤというのはたいてい、ススキが生えるような空き地に群生するものと相場が決まっている。
いくら、いつまでも住む家でないといったって、これではみっともなさすぎる。
少なくとも、“ガーデン”というカタカナで呼べるような代物では、ない。
ここまで状況が悪いと、かえってやる気が湧くものである。
突然の人間の襲来に驚いたトノサマバッタにショウジョウバッタが飛び交う中を、いろんなポーズであらゆる角度から鎌を振るったりしてみる。
顔にはうっすら笑顔さえ浮かんでいるから、どこか怪しい。
しかし、この調子ではいつ刈り終わるのか、まるで見当もつかない。
と、その瞬間、背後に春風のように涼しげな声がした。
「あらあらあら~、草刈ってるの?そりゃ大変じゃろ?」
顔を上げるとそこにはいつの間にか、ふっくらツヤツヤの健康そうな顔に優しい表情を浮かべた、50代くらいと見えるおばちゃんが立っていた。
聞けば、真向かいの明るいお宅に娘さん一家と一緒に住んでいるという。
「奥さん1人じゃ、無理じゃあ」
やばいご近所さんだ、とやや身を固くしながら、いや~すごい雑草ですね、でもまあなんとかなるでしょナハハ、などと言いながら顔にうすら笑いを貼り付けて刈り続けるワタシ。
引越しのご挨拶も、そこは最近の若者らしく全くしていなかったので、この機会を利用してややどもり気味の自己紹介なんぞを済ませる。
話が尽きれば人は去ってゆくもの…
そう考えていた私は、ここの人たちの親切っぷりを甘く見すぎていた、と思う。
「奥さん、やっぱり無理じゃ。うちもいつも、隣の○○さんに刈ってもらってるのよ。言うてきてあげるから、ね?」
いやいや~、そんなの悪いですって、自分でやりますって、とかなんとか焦っているうちに、はす向かいから肩掛け式の自動草刈機をかついだ人の良さそうなおっちゃん登場。
年の頃は60代と見える。
草刈機はそれなりに重そうだったので、ますます慌てたワタシは、うわぁ、じゃあ、それ、すいませんけど貸してくださいっ、やってみますから~、と訴えた。
しかしおっちゃんは逆に心外そうな表情で、草刈機を手放す様子はない。
「いいのいいの、○○さんは、好きでやってるんだから~。やってもらったらいいとよ!」
ポカンと口を開けて見守るうちに、あれよあれよと雑草どもが草刈機のウイーーーンというエンジン音と共に刈り取られてゆく。
おばちゃんが言うとおり、おっちゃんはご近所の庭仕事を手伝うのが趣味だそうで、
「ずっとこの庭をどうにかせんと、と思ってたんですよ。けど、人ん家だし、勝手にする訳にもいかんしね?」
と、今度は枝があっちこっちに張り出していた垣根の剪定までやり始めた。
すると垣根の奥に、アシナガバチの巣を発見!
おっちゃんが殺虫剤を取りに家に戻る。
今度は、別のおばちゃんを連れて出てきた。
両手にキンチョール(大)を1缶ずつ握りしめている。おっちゃんの奥さんである。
「ひゃあ~こりゃ大きい巣じゃ、危ない、危ない!」
と、右手と左手のキンチョールを同時に目一杯プッシュしながら大騒ぎだ。
向かいのおばちゃんは
「二刀流じゃねぇ~」
とニコニコしている。
そうこうしているうちに、隣の畑の持ち主である別のおばちゃん登場。
「みんなええ人じゃろ?うちの畑も、いつもキレイにしてもらってるんよ」
更には、今やどこの人だったのかも分からないおっちゃん登場。
「この庭は、最初はきれいな芝生だったんだけどねえ、もう雑草にやられて、元に戻すのは無理じゃないかねえ」
しかし、はす向かいのおっちゃんはやる気満々で
「人が勝つか、草が勝つか、じゃね。草を刈り続けとったら、そのうち、芝生が生きてくるよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
その後、冬から春にかけての草取りを怠けたため芝生はまだ蘇っていないが、
しびれを切らしたおっちゃん、おばちゃんが頃合を見てワタシを庭仕事へと誘い出す。
朝、ベッドの中で、草刈機の音が聞こえれば、その距離を耳で確かめる。
音が近いようなら、自宅の庭の可能性アリ!とベッドから飛び起きて馳せ参じる。
ご近所さんは、みんな早起きだ。
今では、家の裏手に畑がひと畝できている。
もちろんワタシはクワもスキも持っていないので、9割方がおっちゃんの作品である。
ワタシがパジャマのままでトマトやナスの様子を確かめに行く頃には、雨も降ってないのにその部分の土だけがしっとり湿っている。
すでに、水遣りが終わっているのだ。
玄関前には、ちょっとした花壇もできた。
メインで植わっているのは、おっちゃんのお宅にあった「ローズダリス」という木で、親切にも引っこ抜いて移植してくれた。
ワタシもワタシなりに、小さな木を買ってきてあったのだが、それは小さすぎるということで屋内でしばらく育てなさい、とのこと。
また、庭先でよく見かけるマリーゴールドの苗を買ってくれば、おっちゃんがかのローズダリスの周りに見事な等間隔で植えてくれた。
まるでクリスマスツリーのようだ。
どうやら、この「ガーデニング」について、あまりワタシの自由は残されていないらしい…。
昨日は、空いたスペースにこっそりミニバラを植えてみた。
おっちゃんは、花にはあまり関心がないようで、ミニバラちゃんへの今朝の水遣りはこの手で実行できた。
それから、「そんな高いのもったいないよ」と言われながらも、雑草避けにと生垣の下に15kg398円の玉砂利を敷いてみた。
うむ、美しい。
ふと気が付けば、裏の窓から畑の野菜をウキウキしながら覗いている自分がいる。
パソコンやゲームからは得られない何かが、そこにあるから…かもしれない。